遺族厚生年金と経過的寡婦加算
遺族厚生年金と経過的寡婦加算
経過的寡婦加算
「経過的寡婦加算」とは、夫の死亡により「遺族厚生年金」を受給する妻が昭和31年4月1日以前生まれの場合に、その生年月日に応じて「遺族厚生年金」に加算される年金です。
「経過的加算」を受けるためには、死亡した夫が、原則20年以上厚生年金に加入していたことが必要となります(※長期要件の場合)。
この要件は加給年金と同じで、妻の方は厚生年金の加給加入期間が、原則20年未満でなければなりません。
※長期要件と短期要件
遺族厚生年金の受給要件にはいくつかの種類があり、死亡者が老齢年金受給者または受給資格期間を満たしている場合を「長期要件」といいます。
長期要件の遺族厚生年金は死亡者の年金加入期間によって年金額が決まります。厚生年金加入者が死亡した場合、老齢年金の受給資格期間を満たしていなくても、遺族厚生年金の支給要件を満たしますが、こちらは「短期要件」といいます。
「短期要件」の場合の年金額は、実際の厚生年金加入期間に関わらず300月とみなされて算出されます。
厚生年金加入者の死亡という事態は、いつ起こるかわからないため、年金受給資格期間や年金額形成のための十分な加入期間がない場合が想定されます。
そのため、「300月のみなし」という措置あります。
スタディ
a. 30歳台の会社員(厚生年金加入)が死亡→短期要件
b. 78歳の老齢年金受給者が死亡→長期要件
c. 50歳台の会社員(厚生年金加入)で、老齢年金受給資格期間は満たしている人が死亡→短期要件にも長期要件にも当てはまる。この場合、年金額が有利になる要件を選択できる。何も言わないと短期要件になってしまう。
経過的寡婦加算の額
生 年 月 日 | 加 算 額 | 生 年 月 日 | 加 算 額 |
---|---|---|---|
T15.4.2〜 | 585,100 | S17.4.2〜 | 273,100 |
S3.4.2〜 | 527,300 | S19.4.2〜 | 234,100 |
S4.4.2〜 | 501,500 | S20.4.2〜 | 214,600 |
S5.4.2〜 | 477,500 | S21.4.2〜 | 195,100 |
S6.4.2〜 | 455,100 | S22.4.2〜 | 175,500 |
S7.4.2〜 | 434,100 | S23.4.2〜 | 156,000 |
S8.4.2〜 | 414,500 | S24.4.2〜 | 136,500 |
S9.4.2〜 | 396,000 | S25.4.2〜 | 117,000 |
S10.4.2〜 | 378,600 | S26.4.2〜 | 97,500 |
S11.4.2〜 | 362,200 | S27.4.2〜 | 78,000 |
S12.4.2〜 | 346,700 | S28.4.2〜 | 58,500 |
S13.4.2〜 | 332,100 | S29.4.2〜 | 39,000 |
S14.4.2〜 | 318,200 | S30.4.2〜 | 19,500 |
S15.4.2〜 | 305,100 | S31.4.2〜 | 0 |
S16.4.2〜 | 292,600 |
中高齢の寡婦加算
「経過的寡婦加算」は、第3号被保険者制度スタート時に30歳を超えていた世代が支給対象となる「経過措置」の年金ですが、なぜこのような経過措置が必要かを理解するためには、「中高齢の寡婦加算」について知らなければなりません。
そして、「中高齢の寡婦加算」を理解するためには、比較的若い時期に夫を失った場合の「遺族厚生年金」について知る必要があります。
なお、「経過的寡婦加算」は経過措置ですが、「中高齢の寡婦加算」は恒久的な制度です。
順を追って説明しましょう。
- 妻が40歳未満、子どもが18歳未満の時に、夫が死亡。
- 妻に、「遺族基礎年金+遺族厚生年金」の2階建て年金が支給され、遺族基礎年金には子の加算がつく。
- 妻が40歳以上になり、子どもが18歳になる。
- 「遺族基礎年金」は俗に「子育て年金」とも呼ばれ、子どもが18歳になるまでしか支給されない(正確には、18歳になっての年度末(3月31日)まで)。
- そうなると、遺族基礎年金と子の加算がなくなり、年金額が急激に下がってしまう。
- そこで、妻が65歳になるまでは、「中高齢の寡婦加算」という年金が、「遺族厚生年金」に加算され、年金額の激変を緩和する。
- 「中高齢の寡婦加算」の額は、遺族基礎年金の4分の3の額
- 妻が(再婚することなく)65歳になる。
- 妻自身の「老齢基礎年金」が支給されるので、「中高齢の寡婦加算」は役割を終了し、支給が打ち切られる。(65歳になると、老齢基礎年金とバトンタッチする形になる)
以上の①〜③を図示すると次のようになります。
- 妻自身の「老齢基礎年金」が支給されるので、「中高齢の寡婦加算」は役割を終了し、支給が打ち切られる。(65歳になると、老齢基礎年金とバトンタッチする形になる)
経過的寡婦加算が必要なわけ
上記の③のときに、妻自身の老齢基礎年金が満額であれば、「中高齢の寡婦加算」の額より高い金額になります。
満額の老齢基礎年金の額は、遺族基礎年金と同額ですから、遺族基礎年金の4分の3の額である「中高齢の寡婦加算」より低い額になるはずがありません。
しかし、第3号被保険者制度がスタートした昭和61年4月時点で30歳を超えていたとしたら、60歳まで30年加入できません。
30年加入できないということは、その人が受給する老齢基礎年金は満額の4分の3未満になってしまうということで、そうすると、「中高齢の寡婦加算」の額を下回ってしまいます。
つまり、前記③の場面で、「中高齢の寡婦加算」と老齢基礎年金とバトンタッチしたときに、年金の総額が低くなってしまうのです。
そのような「不都合」を回避するためにある措置が、「経過的寡婦加算」というわけです。
したがって、支給対象が、昭和61年4月時点ですでに30歳を超えていた、昭和31年4月1日以前生れの女性になるわけです。
なお、昭和31年4月2日以降生まれでも、国民年金の未納によって、老齢基礎年金が「中高齢の寡婦加算」よりも低くなることは考えられますが、国民年金の未納は義務違反なので、その差額が支給されることはありません。
逆に、昭和61年度以前に国民年金に任意加入、または結婚前の厚生年金加入期間があるなどの理由で、昭和31年4月1日以前生まれでも、自身の老齢基礎年金が「中高齢の寡婦加算」より高いケースも想定されますが、この場合でも「経過的寡婦加算」は支給されます。
要するに、事務的に生年月日で決まるのです。
なお、「経過的寡婦加算」は、妻が65歳以上で夫が死亡した場合でも受給できます。
この場合、妻は「中高齢の寡婦加算」を受給していないので、③のバトンタッチの場面はないのですが、それでも大丈夫です。
2015.5.31