繰上げ、繰下げを考える
繰上げ、繰下げを考える
長生きすると損なのが「繰上げ」、得なのが「繰下げ」
「繰上げ」と「繰下げ」に関しては、これまで、だいぶ長々と説明してきましたが、このあたりで総括してみましょう。
繰上げは、年金を早くもらえる代わりに減額されますから、長生きすると早く受給した分を食いつぶすような形になります。
対して、繰下げは、年金受給を遅らせる代わりに年金が増額されます。
長生きすることで、年金受給を遅らせたことで受け取らなかった年金を取り返すような形になります。
つまり、先に説明した「損益分岐点年齢」を基準に、それより長生きすると損なのが「繰上げ」、得なのが「繰下げ」ということになります。
繰上げまたは繰下げで、もし、「失敗」して、後悔する場面があるとしたら、「繰上げ」で後悔する場面では、その人はまだ生きています。
生きている限り、生活費が必要です。
「繰下げ」で後悔する場面は天国です。
天国では生活費は必要ありません。
しかし、どちらが良いのかは、その人の価値観によりますし、平均寿命や平均余命という統計上の指標はあっても、実際にある人が何歳まで生きるかは事前にはわかりません。
「長生き保険」という考え方
国の老齢年金は、「終身年金」です。
生きている限り支給されます。
対して「貯金」は、あまり長生きすると、使い果たしてしまう可能性があります。
人の寿命はわかりませんから、終身年金である国の老齢年金は、ある意味「長生き保険」という側面も持っていると考えられます。
終身年金であれば、生きている限り尽きることはないからです。
「保険」とは、そういう事態になったら何らかの保証があって助かるけれど、そういう事態が起こらなければ無駄になる(一種の「掛け捨て」)というものです。
したがって、繰下げで後悔する場面は、「掛け捨て」に該当すると考えることができます。
つまり、「繰下げ」は、「(早死にして)損するリスク」を掛金とした「長生き保険」の機能強化の方法と考えることもできます。
対して、「繰上げ」は、「(長生きして)損するリスク」を掛金とした「年金の一部払い戻し」と言えるかもしれません。
「一部払い戻し」しているわけですから、「長生き保険」の機能は低下します。
合理的に考えれば「繰下げ」だが・・・
以上のように考察すれば、やはり「繰下げ」の方が合理的だと思います。
したがって、私は基本的に「繰上げ」はお勧めしません。
しかし、実際には「繰上げ」をする人は多く、「繰下げ」をする人は少ないようです。
何故でしょうか?
以下は推測です。
繰上げが多い理由のひとつは、年金制度に対する不信、いつまで年金制度があるかわからないから早く貰っておこうという考えの人が多いのかもしれません。
もうひとつは、「お得情報」。
年金が早くもらえるということが一種の「お得情報」として、広まっているということがあるのかもしれません。
私としては、「マクロ経済スライド」による年金支給水準の引下げに対抗するためにも、「繰上げ」より「繰下げ」が良いと主張していきたいです。
2015.10.3