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社会保険給付と労務 その10(育介給付率半年間引上げの意味)

社会保険給付と労務 その10(育介給付率半年間引上げの意味)

なぜ前半6ヵ月間の給付率が高いのか?

育児休業期間は、雇用保険から「育児休業給付」が支給されます。
「育児休業給付」の支給額は、平成25年度までは休業前の賃金の50%でしたが、平成26年度から最初の6ヵ月間は67%に引き上げられ、7ヵ月目以降は50%になります。

ここで、考えていただきたいことは、なぜ最初の6ヵ月間だけ給付率を上げたのかということです。
育児支援を充実させたいということであれば、最初の6ヵ月間だけはなく、全期間給付率を上げるという選択肢もあります。
財源問題があるのであれば、全期間引き上げる代わりに給付率を67%ではなく60%程度に抑えるという方法もあります。
つまり、他に選択肢があるのにあえて最初の6ヵ月間だけ給付率を引き上げたわけです。

これには明確な意図があります。

それは、男性にも育児休業を取らせたいということです。
夫婦が交代で、それぞれが6ヵ月以内の育児休業を取れば、全期間給付率67%を維持できるということです。

男性社員の育児休業

育児休業は、もともとは、男性社員には捉えなくても良いものでした。
会社が、育児休業の申し出を拒否できる社員として、いくつかの条件を労使協定で決めることができますが、平成21年度までは、「配偶者が育児可能な社員」という条件を付けることが認められていました。
「配偶者が育児可能な社員」とは、具体的には、配偶者が専業主婦か、育児休業を取るか、または週2日以下しか勤務しないパートタイマーであることで、共稼ぎ夫婦でも普通は奥さんが育児休業を取るので、この条件によって男性社員の育児休業の申し出を拒むことが可能でした。

ただし、共稼ぎ夫婦で、奥さんが育児休業を取らないということであれば男性社員の育児休業を拒否はできませんから、必ずしも男性社員すべての育児休業申出を拒めるわけではありません。
実際、私の顧問先で、このパターンで男性社員に育児休業を取らせたことがありました。
しかし、このようなことは極めてレアケースであろうと思います。

これが平成21年(施行は平成22年度から)の育児・介護休業法改正により、労使協定に「配偶者が育児可能な社員」の育児休業申出を拒めるという条件を付すことが認められなくなりました。
この条件排除により、会社が男性社員が育児休業をすることを拒む法的な根拠がなくなりました。

同時に、夫婦が競合で育児休業を取る場合には、育児休業期間を「子が1歳になるまで」を、「子が1歳2ヵ月になるまで」に延長できることとなりました。
厚生労働省は、これを「パパママ育休プラス」という愛称を付けて、男性の育休取得を促進しようとしました。
「イクメン」という言葉ができたのもこの頃です。

ここまでは、法的な枠組みとして男性の育休取得を可能とする取組といえると思います。
しかし、男性の育休取得率は微増したものの十分な効果は得られなかったようです。
そこで、次は、平成26年度からの「育児休業給付の半年間引上げ」という、男性の育休に経済的合理性を付加する策にでたと見るべきでしょう。

育児休業の経済的合理性

一般的に、育児休業を女性が取ることの根底には、「育児は女性の仕事」という社会的認識があること(その是非はここでは問いません)と思いますが、経済的観点からも、女性が取った方が合理的です。
要するに、稼ぎが良い方が引き続き位働いて、そうでない方が育児休業を取る方が、夫婦合計の可処分所得が高くなるのです。
そして多くの場合、男性の方が給料が高いので、女性が育休を取得することに経済的合理性があることになります。

ただし、このことは育児休業給付の給付率が同じという前提です。
給付率が同じなら、休業することによって失われる可処分所得は給料が低い方が少なくて済むからです。
しかし、夫婦の一方が6ヵ月間育休を取った後に、その後どちらが休業するかという場面を想定すると、育休を交代すれば給付率67%を維持できて、しなければ50%に下がるということになります。

どちらが休業するかによって、給付率が違うわけですから、今度は、給料の高低よりも、給付率の高低の方が夫婦合計の可処分所得に与える影響が大きくなります。
そうなると、給料が低い方が休業するという原則が崩れます。

私は、平成26年4月頃、専門誌に夫婦間の給料差を4パターンに分けて、どちらが休業すると夫婦の合計可処分所得がどうなるのかシミュレーションした記事を書きました。
実際にシミュレーションして数字で比較すればわかりやすいからです。

結果は、夫の給料が妻の2倍(夫40万円、妻20万円)というかなり極端な差がある夫婦でも、妻の育休給付が50%に下がる場面では、夫が休業を交代して給付率67%を維持した方が、夫婦の合計可処分所得が若干上回るというものでした。

つまり、「育児休業給付率の半年間引上げ」は、多くの夫婦において、男性の育児休業取得に対して経済的合理性を付加するということです。

男性の育児休業に備える

以上の検証から、会社の労務管理上言えることは、「男性社員の育児休業に備えよう」ということです。
男性社員がほとんどで、これまで育児休業とは無縁を思っていたような会社でも、育児休業取得者の可能性が出てくるということもありますし、休業の代替策が難しいような社員の育児休業取得もあり得るということもあるでしょう。

多少大きな視点でいうと、育児は女性の仕事という固定観念にいつまでもとらわれていると、今後、労務管理上の難しい事態の対処できなくなるかもしれません。
社会通念というものはじわじわと変わってくるので、「急に」ということはないかもしれませんが、少なくとも、男性の育児休業という点では「キッカケ」はすでにできています。

会社の労務も、時代の変化とともに認識の変更を迫られつつあると思います。

2015.4.30

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