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年金の損得その4

年金の損得その4

「標準世帯」または「モデル世帯」が必要なわけ

前回説明したように、サラリーマンの年金の「損得勘定」には、大変な困難がつきまといます。
所得の高低、第3号被保険者の有無というその人の条件によって、支払った保険料に対する年金給付の割合が大きく変わってしまいます。

ではどうするか?
ということで、「モデル」を設定する必要が出てきます。

厚生労働省では、年金の所得代替率等を公表していますが、そこでは「モデル世帯」とか「標準世帯」という概念で、年金受給者の条件設定をしています。

「所得代替率」の計算は、支払った保険料に対する生涯年金受給額との比較で計算する「損得勘定」とは異なりますが、条件を設定しなければ計算自体ができないという点では同じです。

ですから、すべてのサラリーマンに当てはまるというわけではありません。
あくまでも、年金制度を考える上でのマクロ的な指標と捉えるべきでしょう。

話がそれましたが、条件を設定しないと計算できないということがサラリーマンの年金の宿命なんですね。

ちなみに、厚生労働省の様々な試算の「モデル世帯」は、所得は厚生年金加入者の平均的な所得で、第3号被保険者がいるというものです。

「第3号被保険者がいる」という設定をもう少し突っ込んでみると、所得代替率の計算要素としての年金に配偶者の老齢基礎年金と本人の老齢基礎年金と老齢厚生年金が含まれるわけで、こうなるためには配偶者が20歳から60歳までの40年間ずっと「第3号被保険者」でなければならないことになります。

現実に即してみれば、奥さんが20歳のときに結婚して、その後奥さんはずっと専業主婦またはパートタイマーで第3号被保険者でいられる程度の収入(年130万円未満)だったことになります。
このような設定はむしろレアケースでしょう。

つまり、厚生労働省の試算する「所得代替率」における「モデル」とは、実際にこういう夫婦が標準という意味ではなく、夫婦単位で設計されている年金制度の設計思想に基づく「モデル世帯」と解釈すべきです。

老齢厚生年金の計算式から考える

「損得勘定」の前提である、条件設定の話が複雑なのでなかなか話が進みません。
そこで、強引ではありますが、まずは老齢厚生年金の計算式から考えてみることにします。

再掲ですが、老齢厚生年金の正規の計算式は次のようになります。
ここでは、平成15年度以降の計算式だけを取り上げましょう。

  • 平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数

老齢基礎年金のときと同様に、年金を1ヵ月に分解して考えれば、最後の「×加入月数」はいりませんから、「平均標準報酬額×5.481/1000」になります。

このうち、やっかいなことに平均標準報酬額の算出の際に、実際の報酬額に「再評価率」を掛けなければいけません。
平成22年度から26年度までの5年間の本来水準の再評価率は平均0.964ですから、再評価率にはこの数値を使うとすれば、1ヵ月加入分の年金額は標準報酬月額×0.964×5.481/1000ですから、その月の標準報酬月額の約5.28/1000が年金額になります。

対して、保険料率は平成26年9月から平成27年8月までは、174.74/1000、平成29年9月に183/1000まで上がって、この率で固定されます。
ここでは、最も高くなった保険料率183/1000を使用しましょう。

そうすると、183÷5.28で、35年弱で保険料を回収することができることになります。

183/1000は会社負担額も含めていますから、本人負担だけでみれば、その半分の17年ちょっとで回収可能ということになります。
本人負担だけで考えれば、65歳から年金を受給するとして、老齢基礎年金を無視したとしても82歳〜83歳ぐらいで、支払った保険料を回収することができるということになります。
男性の平均寿命から考えると、本人負担を回収できるまであと一歩というところです。

実際には、老齢基礎年金も受給できるわけですから、所得水準に関わらず本人負担分は余裕で回収できそうです。

前回説明したように、所得水準が低い人ほど、上記の計算で除外いた老齢基礎年金分の割合が大きくなりますから、回収可能年齢も下がることになり、第3号被保険者がいれば老齢基礎年金分をダブルカウントしますからなおさらです。
さらに、配偶者との関係では、別に「加給年金」や、本人が亡くなった後には、配偶者に「遺族厚生年金」が支給される可能性もあり、これらが該当すれば、「損得計算」上はさらに有利になります。

また、経過措置として、65歳前に「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる世代は、その分はやはり有利になります。

年金受給までに支給水準が下がり切った場合

不利な材料としては、「マクロ経済スライド」により、将来の年金支給水準が引き下げられることです。

「マクロ経済スライド」による支給水準の引下げは、実質額を長期間かけて2割程度下げるもので、必ずしも名目額を下げるものではありません。
なおかつ、政府は当面「デフレ下」でのマクロ経済スライドの発動を見送る方針ですから、「名目額」が下がるのは、物価、賃金が下落した局面に限定されます。
対して、損得計算は支払った保険料対比ですから、「名目額」が下がらなければ不利に名なりません。

しかし、一応最悪に近い想定で、名目額が2割下がった仮定で試算することにします。

老齢厚生年金の計算式においては、「マクロ経済スライド」による支給水準の引下げは、再評価率に反映されます。
ここでは、年金財政が均衡するまで引き下げた場合の名目額の支給水準を現在の8割程度と想定し、先の損得勘定計算式の183÷5.28の5.28を2割引きして、4.224に修正して試算を試みることにします。

そうすると、183÷4.224ですから、老齢基礎年金を除外した保険料回収期間は、43年強に延びてしまいます。
本人負担分の回収ならその半分で22年弱。

これに老齢基礎年金分を含めて、平均均寿命で回収できるかどうかです。
もちろん、この計算は年金の支給水準が下がり切ってから年金を受給する世代のことで、下がる途中で受給できる世代はもう少しましになります。

年金制度上最も不利な例として、支給水準が下がりった後に年金を受給し、しかも、夫婦単位で設計されているサラリーマンの年金制度において最も不利といえる「一生独身者」で考えてみましょう。
先の計算に加えられるのは老齢基礎年金のみで、加給年金も遺族厚生年金もありません。

老齢基礎年金は定額年金ですから、ここで標準報酬月額という条件設定が必要となってきます。
仮に、老齢厚生年金と老齢基礎年金がほぼ同額になる「標準報酬月額」を仮定するとしたら、年金給付の方が老齢厚生年金の倍になりますから、保険料回収期間は半分になります。
本人負担分だけなら約11年、会社負担分も含めて回収するためには約22年です。

将来の年金支給開始年齢は、おそらく70歳ぐらいまで引き下げられると思われます(現段階では未定ですが)。
そう考えると、年金受給後11年ということは、81歳。
現在の男性の平均寿命は79歳数ヵ月で、将来的に平均寿命がもう少し延びると考えれば、独身者でも保険料本人負担分の回収はかろうじて可能かもしれません。

老齢厚生年金と老齢基礎年金がほぼ同額になる「標準報酬月額」とは、平成26年度価額で30万円から32万円というところです。
これより高ければ、回収期間が延びる、つまり損得計算上は不利になっていきます。

こう考えると、年金制度上最も不利な世代(保険料率が最大になる平成29年以降、厚生年金に加入する世代、平成9年生まれぐらい)で、一生独身かつ高所得者であれば、保険料の本人負担分の回収すら難しくなってくるかもしれません。

なお、ここでの試算は最悪に近い状況を想定したものですから、こうなるかどうかは経済状況次第という面があることをお断りしておきます。

以上は、少なくとも現時点移行の年金加入期間に対してのかなり強引な「損得勘定」で、やはり、古い時代の加入期間を多く持っている世代が有利になります。
少なくとも、現時点で50歳台ぐらいの既婚者で、かつ配偶者(一般的には奥さん)が第3号被保険者であれば、サラリーマンの年金は十分「お得」なはずです。

2015.3.10

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