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年金と労務 その3(高年齢者賃金設計③)

年金と労務 その3(高年齢者賃金設計③)

最適賃金

前回は、高年齢雇用継続給付と在職老齢年金を併給すると、60歳以後の賃金が「60歳到達時賃金」の61%から75%の範囲内では、賃金が低い方が公的給付をあわせた手取り収入(以後、便宜的に「総手取り額」といいます)が高くなるという「逆転現象」を紹介しました。

61%から75%の範囲内では、賃金が低い方が「総手取り額」が高くなるということは、この範囲内では、最も低い賃金額になる「60歳到達時賃金」61%で、「総手取り額」のピークが来るということです。

ただし、実際には「標準報酬月額」との関係があるので、どんな場合でも61%とは限らず、61%付近の賃金額になります。
20万円台の「標準報酬月額」は2万円刻みですから、61%よりも少し低く、例えば2,000円低くすることで「標準報酬月額」が2万円下がるのであれば、社会保険制度上の賃金は2万円低くなり、在職老齢年金の支給停止額は1万円低くなり、社会保険料負担額も3,000円ほど低くなります。

上のようなケースでは、「60歳到達時賃金」61%より2,000円ほど低い賃金額で、「総手取り額」のピークが来ます。

以上のような、「60歳到達時賃金」の61%から75%の範囲内で「総手取り額」がピークになるような賃金額を、私たち社労士業界では、「最適賃金」と呼んでいます。

「最適賃金」は、あくまでも「60歳到達時賃金」の61%から75%の範囲内でのピークであって、賃金を全く下げない場合よりも「総手取り額」が高くなるというわけではありません。
しかし、どうせ下げるなら、70%にするのは中途半端で、いっそ60%前後まで下げた方が良いという程度にご理解ください。

賃金の本来価値

「最適賃金」の「最適」という言葉は、本来的な意味での「最適」ではありません。
本来的な「最適賃金」という意味であれば、「労働価値に対して最適」ということになるはずですが、この「最適」は、公的給付との兼ね合いで「最適」というような意味になります。

この点で、60歳以降の賃金設計において、本来的な意味で「最適」を目指している賃金制度の専門家とは、見解が異なります。
賃金専門家は、概ね、従来の年功制から脱し、その人の労働価値とイコールになるような賃金にすることで、60歳以降の賃金を最適化させようと考えるようです。

65歳までの継続雇用に賃金引下げが必要な理由の大きな要因として「年功的賃金」があり、そのため、定年年齢付近の賃金がその人の「生産性」を上回ってしまうため、そのままの賃金では雇用を継続できないということになります。
ならば、「生産性=賃金」となるような賃金制度にすれば、年齢に関係なく雇用は継続できるはずです。

私も、このような考え方の方が正当性があると思います。
しかし、人が人の能力を正当に評価する難しさと、会社にもよりますが、現状まだまだ残っているであろう「年功的要因」、なによりも、「逆転現象」を生じさせるほどの公的給付の賃金への影響力を考えると、企業の労務においてはまだまだ「最適賃金」が支配するのではないかと考えています。

60歳以降の「無年金期間」

平成25年度以降に60歳になる男性サラリーマンから、年金支給開始年齢は60歳ではなくなりました。
年金支給開始年齢は、生年月日(男性:昭和28年4月2日〜36年4月1日生まで)により61歳から64歳となります。

しかし、企業の定年年齢はいまだ60歳が主流です。
そうすると、定年後65歳までの再雇用期間が、「無年金期間」と「年金支給期間」に、二分されることになり、先に述べた「逆転現象」が起こるのは、高年齢雇用継続給付と在職老齢年金を併給する「年金支給期間」に限定されます。

無年金期間と年金支給期間

「無年金期間」の公的給付は「高年齢雇用継続給付」だけになります。
そして、この給付だけでは「逆転現象」は起こりません。
しかし、この給付だけでも、賃金に対する影響力はかなり大きいものがあります。

前回説明したように、高年齢雇用継続給付は、「60歳到達時賃金の61%から75%の範囲においては、賃金引下げに対する給付の補てん率が65%」です。
これに賃金引き下げによって軽減される社会保険料と所得税をあわせると、賃金補てん率は8割を超えることになります。

逆に見れば、「60歳到達時賃金の61%から75%の範囲」においては、賃金を引き上げても、手取額は2割も増えないということです。
そうすると、結局は「60歳到達時賃金の6割前後」にするのがやはり「最適」になってしまいます。

ということは、年金が受給できないのに、平成24年度までの60歳から年金が支給される世代に対する「最適賃金」と同額の賃金が、少なくとも公的給付との兼ね合いでは「合理的」になってしまいます。

企業が、年金の不支給に配慮して、無年金期間の賃金を「年金が支給されないから、今までの60歳前の6割ではなく7割にしよう」としても、社員の手取はさほど変わりません。
6割と7割の差が4万円だったとすると、企業は4万円+社会保険料会社負担分(約15%→あわせて約4.6万円)の負担増になるのに、社員の手取は7千数百円しか増えないのです。

では、年金の不支給に配慮したい会社は、「無年金期間」の賃金をどうすれば良いのか?

ヒントは、高年齢雇用継続給付には賞与は関係ないということです。
月給を60歳前の賃金の1割程度でも増やしてやろうと考えるなら、その分を賞与で支払えば高年齢雇用継続給付の支給額には影響しませんから、社員の手取は社会保険料と税負担分を除く約8割が増えることになります。

ただし、賞与は年金支給開始後数ヵ月から最大1年間、幾分在職老齢年金の支給停止額を上げるという副作用があります。

なかなか難しいですね。

2015.10.18

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