年金と労務 その1(高年齢者賃金設計①)
年金と労務 その1(高年齢者賃金設計①)
65歳雇用確保義務
現在、企業には高年齢者雇用安定法という法律によって、65歳までの雇用確保義務が課せられています。
同法では、企業の定年年齢は、60歳を下回ってはならないとされており、要するに定年は60歳定年が認められています。
したがって、65歳までの雇用確保は、必ずしも定年年齢を65歳以上にしなければならないということではなく、次の3つの方法が選択できる形になっています。
① 定年制の廃止
② 65歳以上の定年制
③ 継続雇用制度
日本の企業の定年年齢は長きにわたって60歳定年が主流で、近年、65歳定年に移行する企業も少しずつ増えては来ているようですが、やはり今でも60歳定年が主流といえそうです。
ということは、多くの企業では65歳までの雇用確保の方法として、③の継続雇用制度を採用していることになります。
継続雇用制度には、2種類あり、定年年齢を延長する「勤務延長制度」と、一度定年退職してから、再度雇用する「再雇用制度」があります。
「再雇用制度」では、「退職」というプロセスがあります。
これが「勤務延長制度」との大きな違いで、このプロセスにより、雇用契約を一度解消して、改めて雇用契約を再締結することになります。
したがって、前契約の内容に縛られることがなく、新たな契約を締結することになるので、労働条件の変更がしやすくなります。
一般的には、賃金の引下げ、配置転換、勤務時間の変更等が行われますが、年金と絡むのは、賃金引下げです。
これに対して「勤務延長制度」は、「退職」というプロセスがありません。
つまり、従前の雇用契約が定年後も継続することになります。
統計では、「勤務延長制度」でも定年年齢後に賃金が下がる会社はありますが、理論的に考えれば、大幅な労働条件の変更は難しいと考えられます。
実際のところは、8割から9割程度の企業で、60歳定年制で、継続雇用制度それも「再雇用制度」が採用されています。
65歳前の在職老齢年金
以上のように、法令上、企業は65歳まで雇用を確保しなければなりませんが、年金は65歳前から支給されます。
したがって、60歳以降年金を受給しながら働く社員には、労務と年金の関係が生じてきます。
60歳以降の雇用と直接関係してくる年金制度に、「在職老齢年金」があります。
「在職老齢年金」とは、「65歳前の在職老齢年金」と、「65歳以降の在職老齢年金」の2種類がありますが、65歳前の雇用確保義務と直接関係するのは「65歳前」の方です。
「在職老齢年金」とは、年金と賃金・賞与の調整年金のことなので、基本的に、賃金・賞与が高いほど年金がカットされ、場合によっては全額カットになります。
つまり、年金を受給しながら働く社員の賃金決定の要因には、かなりの程度「65歳前の在職老齢年金」が反映される可能性がるということです。
しかし、現在、年金支給開始年齢が引き上げられていて、60歳から年金受給できない社員が出現しているため、60歳台前半の労務と年金の関係も「過渡期」に入っています。
高年齢雇用継続給付
雇用保険には、60歳以降賃金が大幅に引き下げられる社員(雇用保険の被保険者)に対して(65歳まで)支給される「高年齢雇用継続給付」という給付があり、これも60歳台前半の労務に関わってきます。
この給付は、もともとは65歳までの継続雇用を推進するために創設された給付です。
雇用保険制度上は、「失業を予防する給付」という位置づけがされていて、「雇用継続給付」という名称にその趣旨が反映されています。
「雇用継続給付」の仲間に、「育児休業給付」と「介護休業給付」があり、いずれも雇用保険の被保険者に対して支給される給付です。
平成一桁の時代、当時の労働行政として、将来的に65歳支給になる年金に連動して、65歳までの継続雇用を広めていくことが大きな課題となっていました。
そこで様々な調査結果から、65歳までの継続雇用を妨げている要因に、定年前の高賃金があることがわかり、賃金を下がれば継続雇用がかなりの程度可能になると想定から、平成7年度に創設されたのが「高年齢雇用継続給付」でした。
「高年齢雇用継続給付」とは、企業は定年後の賃金を下げてもいいから、65歳までの継続雇用を推進して欲しい、その代り賃金を下がられた社員の経済的な支援を雇用保険でやりましょう、ということで創設された給付なのです。
以後、平成15年度には、高齢者を優遇し過ぎという批判からか、支給率を引き下げて現在に至っています。
この給付は、65歳までの継続雇用制度を普及させる目的で創設されたのですから、65歳前の継続雇用が法令により義務化されれば、この給付は役割を終えるから不要になるはずです。
実際に、労働政策審議会では、そのような観点から、一時は平成25年度で廃止されることが検討されていました。
しかし、そうはいっても、企業の現場では、この給付が継続雇用制度と結びついている現状があり、労働政策審議会でも廃止に反対する意見が通り、この給付は現在に至るまで残されています。
60歳台前半の社会保険給付と労務の関係
以上、述べてきたように、60歳台前半の労務には、年金(65歳前の在職老齢年金)と高年齢雇用継続給付という2つの社会保険給付が、その賃金の決定に大きく関与してきます。
しかし、時代は過渡期に入り、高年齢雇用継続給付は従来通り、60歳から65歳までが支給対象期間ですが、年金は60歳から支給されなくなりました。
65歳前に支給される年金は、「特別支給の老齢厚生年金」といって、旧厚生年金が60歳支給だったものを、65歳支給に移行するまでの「経過措置」です。
現在は、65歳前の「経過措置」の年金がなくなっていく過渡期で、年金支給開始年齢はそう遠くない将来65歳になります。
現状をいうと、今年度(平成27年度)に60歳になる男性の支給開始年齢は62歳となっています。
したがって、しばらくの間、60歳から65歳までの社員に適用される社会保険給付は、次のようになります。
- 60歳〜年金支給開始年齢
- 高年齢雇用継続給付のみ
- 年金支給開始年齢〜65歳
- 高年齢雇用継続給付+65歳前の在職老齢年金
年金支給開始年齢は世代(及び性別)によって異なります。
次回に続く
2015.10.12