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厚生年金基金解散促進法の背景

厚生年金基金解散促進法の背景

平成25年に、厚生年金基金解散促進法(略称、正式の法律名はもっと長ったらしい)が成立し、平成26年度から施行されています。
この法律が成立した背景には、厚生年金基金の財政悪化と、それを象徴する事件だった「AIJ詐欺事件」があります。

代行給付のわけ

厚生年金基金は、厚生年金の保険料の一部を基金の掛金に回してもらい、その代り、本来、国が支給すべき老齢厚生年金の支給を代行します。
これを「代行部分」といいます。
多くの基金では、さらに、代行部分に上乗せする「加算年金」がありますが、こちらの財源は、基金が独自に加入企業から掛金を徴収します。

何故、国の年金を代行給付するかといえば、代行給付の代わりに、本来なら国に納める保険料の一部を基金に回してもらうわけですから、基金が運用する資金が大きくなり、「スケールメリット」が生じます。
運用する資金が大きくなった方が、運用の率が同率なら、運用益も大きくなるという理屈です。

スケールがデメリットに

しかし、スケールメリットを享受するためには、運用が上手くいくという前提が必要であって、運用環境が悪化すれば、スケールメリットは「スケールデメリット」に変わってしまいます。
国の分まで運用していたがために、運用に失敗したときの穴も大きくなってしまうということです。

つまり、現在は「スケール」が「デメリット」になり得る時代であって、そのため多くの基金が財政難に陥っているのです。
平成不況時と違って、今は株式等が好調です。
しかし、「リーマンショック」のような想定外の「経済ショック」があると、大変な運用損失が出てしまいます。
常に運用環境が悪いのではなく、先行き不透明で、リスクが隣り合わせという感じだと思います。
特に、国の年金を代行していると、国の年金資金相当分には穴はあけられませんから、基金の独自部分にしわ寄せがいってしまいます。

基金問題の経緯

基金の財政悪化は、もう10年以上前から顕著になっていて、それで国は平成13年から14年にかけて、「代行部分」を持たない新企業年金の枠組みを増やしました。
有名な「401K」もこの時期にできた制度です。
この枠組みのポイントは、厚生年金基金が、代行部分を国に返上して、新たに代行部分を持たない企業年金に移行できるということです。

この時期に、大企業の厚生年金基金の多くは、代行返上し、加算部分だけの企業年金に生まれ変わりました。
しかし、中小企業が加入する「総合型」の基金では、この決断ができませんでした。
総合型の基金は、中小企業の寄合所帯なので、意思決定が難しいのです。
代行返上に伴って、財源が不足すれば、その負担は加入企業にかかります。基金の運営者は、加入企業に対して、このような不利益な話をして同意を得なければなりません。
この作業がおそらくは大変なのだと思います。

私自身、いくつかの顧問先が加入する基金の説明会に参加しましたが、でてくる話は、加入企業にとって不利益な話ばかりで、説明会は紛糾することが常でした。

当時、代行返上という決断ができなかった基金は、給付水準削減と掛金の引上げで、財政難を乗り越えようとしました。
給付水準削減といっても、代行部分は引下げできませんから、どうしても加算部分の引下げ率が大きくなります。
それでも、平成16年あたりから、株価は上昇し、代行返上しなかった多くの基金は財政危機を乗り越えるかのように思えました。
すくなくとも当時は。

リーマンショック

それを台無しにしてしまったのが、リーマンショックでした。

このような状況ですから、基金の運用担当者は、財政好転のために、少しでも「うまい話」に飛びつきたいという心理状態だったと思います。
そこに付けこんだのが「AIJ事件」だったのだと思います。

「ローリスク、ハイリターン」なんてあるわけないですし、そして基金の運用担当者なら常識として、そのような認識もあったはずです。
それでも詐欺に引っかかった。

詐欺をする側としては、「うまい話」を欲している心理状態につけこむためには、普通の人が持っているであろう「そんなうまい話があるわけない」という不安を払しょくする必要があります。
そこで、顧問に厚生労働省OBがいるとか、権威を利用するわけです。
典型的な詐欺の手口です。

いずれにしろ、「AIJ事件」は、その背景に基金の財政難があるということを象徴する事件でした。
そして、この「AIJ事件」をきっかけに、国は厚生年金基金を廃止する方向に動き始めます。

基金解散の時代へ

「厚生年金解散促進法」は、厚生年金基金に対して、厳しい財政基準を作り、まず、施行年度(平成26年度)からの5年間で、基金の自主的な解散や代行返上を促し、5年経過時点で、基準に達しない基金に対しては厚生労働省が解散命令を出せるというものです。
したがって、財政がよほど良い基金でなければ、5年以内に自主解散または代行返上すると思われます。
こうして、意思決定が難しいといわれる「総合型基金」もいよいよ決断を迫られる時期がやってきたのです。

厚生年金基金に限らず、日本の高度成長時代にできた制度は、高度成長時代にはマッチしていましたが、低成長時代にはマッチしていないのだと思います。
このような制度を高成長型から低成長型に切り替えるためには、「渋い制度」に転換しなければなりません。
「お得な制度」を「渋い制度」に切り替えるには、反対も多くなります。
そのため、制度転換が遅れ、傷が深くなったというのが、今回の厚生年金基金問題の構図ではないかと思います。

2015.6.10

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